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平成30年NPC10月号組合長エッセイ

 

大山鯖街道

 先月号からの続きです。
故治美名誉組合長より「市場に農産物を出荷した帰りのトラックの荷台には何も載せることなく、空で帰ってきているのなら、農家・組合員のために魚ぐらい買ってこい」という指示でした。行ったのは長崎市の波止場に設置された青果市場でしたので、隣接した魚市場の方を紹介していただきました。そして、山の中に住む私たち農村の実情を説明して、農家の人たちに、安くて新鮮な魚を提供したいという思いを伝えました。魚市場の人も、私たちの思いを理解してくれたのでしょう親切丁寧に対応していただきました。真夜中の広い魚市場を歩きながら、そこに並べられた多くの種類の新鮮な魚を紹介してくれる市場の方の後に付いていくだけの私。時間だけが経過していきます。市場の方にも申し訳なく、私は恥を忍んでこう切り出しました。「貧乏な農村です。安くて新鮮で、美味しい魚はどれですか」市場の方は「どういうこっちゃーと」怪訝な顔をしながら、連れて行かれた所には、小さく砕いた氷と共に三十五センチぐらいの大きさの魚が山と積まれています。近寄ってよく見ると鯖です。たぶん漁業取引の言葉でしょう、三万円とか五万円とか聞こえます。私はそのことが全く理解できずに「その鯖一匹の価格は幾らですか」と問うと、当時トロ箱と言っていた木製の一箱詰めの価格を提示されました。価格は七百円でした。それで「一箱には何匹入っているのですか」と再度問い聞くと、「大体、三〇匹から三五匹ぐらいでしょう」とのこと。計算してみると一匹が、二〇円から二十三円です。私も、若気の至り(若さの余り、血気にはやって思慮分別を失うこと)で思い切って「百箱ください」と言ってしまいました。そして百箱のトロ箱をトラックに積み込み、その魚の上に業務用の大きな漏斗で、砕かれた氷を大量に落してくれました。何しろ、二五〇キロメートルの道路を四時間かけて帰らなければなりません。途中、休んでいると氷が溶けて魚が傷んでしまいます。長崎の市場を出る前に、当時の梶原彦松総務部長に電話を入れ「生鮮な鯖を百箱買ったので、予約を取っておいて下さい」とお願いしました。大山農協には昭和三十二年に、全国に先駆けて設置した有線放送という、町内全戸に張り巡らせた電話付放送機がありました。そして町内三十六の集落には450余名の農協女性部員がおり各集落の班長も選任されていました。その班長さんに鯖の注文を取っていただくようにお願いしたのです。梶原部長が「百箱の仕入れは解るが全部で何匹になるか」と問うので「大体三千から三千三百匹ぐらいでしょう」と返すとビックリして「そんなに大量の鯖が売れるのか」と心配するので、「これは組合長の命令で仕入れたものです」と強く返答しました。そして一匹を幾らで売ればよいかと言うので、咄嗟に一匹、五〇円でお願いしますと頼みました。帰りの道中、運転しながらよくよく考えてみれば、ほんとうに若気の至りです。大山の戸数は千戸です。全戸の方が買ってくれても一戸当りは三匹平均です。心配しながら午前九時頃に農協本所に着くと、梶原部長や女性部の協力により、すべて予約が取り終えていると出迎えてくれました。それから職員を手分けして各集落に配達に出ました。当時、新鮮な生鯖は一匹が二百円ぐらいしていましたので、4分の1の価格です。とにかく何事にも厳しい組合長からはめずらしく誉められ、町内の人たちからは大いに喜ばれ「今度はいつの日に鯖は来ますか」と心待ちにされました。

 

進化するクレソンの高床式栽培

魚市場の競売の様子

 

 


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