JA全中の指導権剥脱
昨年五月より続けてきた、安倍晋三政権・自民党と全国農業協同組合中央会(JA全中)の農協改革をめぐる協議が、十分な議論も尽くされず、一般には理解しにくい形で二月九日(月)決着したようです。十日(火)の新聞各紙はどこも揃って一面に大きくトップ記事として「農協60年ぶり改革」「全中社団法人化で決着」「農業再生へ競争促進」などの見出しが踊り、二、三、四面と使い更に詳しく関連記事を掲載していました。その十日の午後、大分県内の各農協、連合会の常勤役員代表が緊急に招集され、これまでの経緯の説明と今後の対応についての会議が別府市で開催されました。経緯の内容については、新聞報道とほぼ同じです。全中の監査・指導権をなくし、五年後の二〇一九年三月までに一般社団法人に転換する事。そして今まで地域農協の監査を実施してきたJA全国監査機構は公認会計士法に基づく監査法人として新たにスタートします。それぞれの地域農協は一般の監査法人とこの新たにスタートするどちらかを選べる選択制となりました。
昨年の六月号エッセイでも書きましたようにその他の改革案、JA全農の株式会社化への転換、地域農協の金融事業、共済事業を全国組織に移管、そして准組合員の利用制限の規制等については、とりあえず先送りとなったようです。さて、今回の安倍政権の一連の騒動をみてみるとどうも腑に落ちない点が数多くあります。安倍政権が公約としたのは「農家の所得を倍増させ農業を成長産業に変える」ことではなかったのではないでしょうか。そして昨年末の大義なき解散と批判された衆議院選で唱えていたのは「国際競争力のある農業」「強い農業」「農業所得倍増」「農業の六次産業化」です。今回のJA全中の指導権廃止、監査権限の撤廃で一体どう農業者の所得の増大と結びつくのかサッパリ解らないのです。第二次安倍内閣(一三年三月)でTPP(環太平洋経済連携協定)交渉に参加を表明した際にJA全中は農協組織を結集して反対集会を繰り返し行いました。そうした中、次第に首相周辺や自民党幹部は不快感を隠さなくなっていったようでした。そのような状況の中で安倍政権が標的としたのが今回のJA全中です。そしてその解体廃止に執念を燃やすようになったのです。更に遡れば〇六年の第一次安倍内閣でオーストラリアとの経済連携協定(EPA)交渉の時にもJA全中は全国集会を開き安倍内閣の決めた交渉方針に真っ向から反対した経緯があります。今回、特に私が驚きびっくり仰天したのは地元大分県選出の国会議員が最終協議の場に出てきて発言されたという言葉の内容です。それは「中山間地で狭小な面積で農業を営んでいる弱小農家には農協は必要である、また少子高齢化が進む中、農協が地域で果たす役割は今後増々大きくなってくる。」と言う意見に対して、その代議士は「この農業改革というのは大規模の企業的農業を育成していくものであって零細農家を育てるものではない」と小さな農業者は見捨てるような驚愕の発言をしたとのこと。開いた口が塞がりません。「奢れる者は久しからず」です。いづれ哀しみ反省の時が必ず到来することでしょう。

木の花ガルテンにてアジアからの視察研修生が記念撮影