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文豪 川端康成(かわばたやすなり)の描く飯田高原へ


新年挨拶号が間に入りましたので、12月号の続きです。大山の小さな集落(八戸)に仲良く暮らす素晴らしい仲間たちの「語るも楽しい、聞くも楽しい」冒険に富んだ愉快な旅の始まりです。時は昭和40年8月15日、45年も前のお盆の最終日、夜10時頃、トレーラー付耕耘機1台、単車(バイク)2台、そして自転車4台に9名が分乗してやまなみハイウェイをめざして出発しました。皆さん夕方よりお酒を召し上がりホロ酔い加減で元気イッパイです。頭に描いているコースは、まず日田市小渕(こぶち)町に出て国道210号線を大分市方面へ南下です。天ヶ瀬、玖珠を経て豊後中村より右に県道40号飯田高原中村線に入り景勝地の九酔渓(きゅうすいけい)、十三曲がりを上り飯田高原に出てそこからやまなみハイウェイに入ります。そして牧の戸峠(まきのととうげ)(標高1,330メートル)を越え瀬の本高原まで走り、国道442号線に入り黒川温泉をぬけ杖立温泉を通り大山町まで帰るという全長250キロメートルの旅です。

一行は非常事態等を想定してトレーラーには白米1斗(15kg)、飲料水1斗(18ℓ)、ご飯を炊く飯盒(はんごう)二個、焚き物の薪、耕耘機と単車の燃料、野営用のテント等を積み込みました。リーダーの小野行政(おのゆきまさ)さん(当時33才)は何が起きても対処できるように懐(ふところ)には大枚を忍ばせていたと語っています。

9名は夜半の国道といえど舗装整備もされていないでこぼこの砂利道を進みます。天ヶ瀬と玖珠の境界にあります滋恩(じおん)の瀧(たき)を通過したのが夜中の12時、この頃になると自転車の4人組がややばててきます。それでもお互い励まし合いながら、時には冗談を飛ばしたり、憎まれ口を叩いたりしながら頑張ってペダルを漕ぎ豊後中村駅前まで辿り着きました。ここにきて4人組もとうとう精根尽き果て、自転車と共にトラクターに積み込まれました。そして九酔渓の十三曲がりを上りきったところの筌ノ口(うけのくち)温泉に着いたのは、白白(しらじら)と夜も明ける頃になっていました。サブリーダーの笘川正義(とまかわまさよし)さん(当時28才)は単車に乗って近くの酒店さんへ走りました。店主を起こし清酒一升を買ってきて皆で温泉に浸り酒を飲み風呂場で4時間程眠ります。

ところで彼ら9名が通過しているこの辺りをノーベル文学賞作家の文豪、川端康成は昭和24年から26年まで「千羽鶴」という小説の中でこう美しく書き上げているので紹介します。

『今日は山の美しい紅葉を見ました。別府の城島高原(きじまこうげん)から見る由布岳(ゆふだけ)もきれいでしたが、豊後中村駅から飯田高原にのぼる道で、九酔渓の紅葉が見られました。十三曲がりをあがって振りかえると、逆光線が山裏や山ひだの色を沈めて、紅葉の美しさが深まっていました。山の肩からさす西日が紅葉の世界を荘厳にしていました。(中略)

九重というのは東から数えて、黒岳、大船山(だいせんさん)、久住山、水俣山(みまたやま)、黒岩山、星生山(ほっしょうざん)、猟師岳(りょうしだけ)、涌蓋山(わいたさん)、一目山(いちもくさん)、泉水山など、連峰の総称です。それらの山々の北側一帯が飯田高原です。(中略)

私は信濃の高原くらいしか知りませんけれど、この飯田高原は多くの人も言うように、ロマンチックななつかしさです。やわらかくて、明るくて、そしてはるばるという思いをさせながら、静かに内へ抱きつつまれたという思いをさせます。南につらなる山々も温和で気品のある姿です。(中略)

高原のなかほどらしい長者原まで来て、私は松かげに長いこと休んでいました。長者原には松のまばらな群れが散らばっていて、私は草原のなかの松に誘われたのでした。少し歩いて、また松かげで、おそい弁当を食べました。二時ごろだったでしょうか。広い草もみじを見まわしていますと、私の位置から言って、日光を受けているところと、逆光になっているところとでは、色が微妙にちがいます。山々の色もそれぞれちがいます。紅葉の色の濃い山は、ステンド・グラスでもみるようです。

そうして私は大きい自然の天堂にいるようです。』

 これから一行9名はこの川端康成の綴った美しい飯田高原、長者原へと進んで行くのです。

次号3月号につづく

 

 


長者原で飯盒でご飯を炊き、又、お酒も飲み朝食。皆さん楽しそうです。

 

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