『小向翁と大山』

 アメリカ カリフォルニア州のフレスノという地に大分県出身の小向角男氏(八十二歳)が在住し、約六〇ヘクタールの農園を経営している。
 三十年前より御交際を頂き、明治の気骨を持った敬愛してやまない大先輩である。
 彼から多くの事を学んだ。
 戦後、二十代にして農業研修生としてアメリカに渡り、各地の農場を点々としてまわり圧倒的規模の大きい農場経営に驚嘆したという。
 帰国後、嫁を伴い再度アメリカに渡航してサンフランシスコとロサンゼルスの中間の地フレスノで少しばかりの農場を手に入れた。その場所を選んだ理由として、水が質・量とも豊かであり、南限、北限の作物が採れるこの地に足を下した。巨峰ブドウ、無花果、李、桃等の果樹とカボチャ等、野菜類も栽培している。大型トラックが五台位駐車出来る建物があり、荷物を積んだまま予冷が出来るシステムとなっている。農園には、堆肥を投入する事が農業の基本と信じる小向氏は、その確保の為、エノキ茸の栽培を思いつき、その掻き出し屑を畑に還元してきた。キノコと果樹の栽培は、相乗効果を発揮し経営も安定したものとなり、プール付きの豪邸で悠悠自適の生活を楽しんでいる。
 アメリカを訪問する度に時間を見つけ、フレスノを訪れた。その都度、心に残る人生訓を聞かしてもらった。農地の管理で線虫の被害は日本もアメリカも同じという。線虫の駆除には畑に砂糖を播け、果樹で甘い実をつけたければ塩を五〇〇倍位にして葉面散布しなさいと教わった。
 又、何より骨身にしみた話は、日本の農業は物を作る事が主体で経営の感覚がなさすぎる。経営の勉強をする事が先決だと訪れる度に教わった。私が三十代前半に彼と知り合い、経営という観点で指導して下さった小向氏に感謝の念で一杯である。
二十年近く前、大分県婦人の翼で当地を訪れ、彼から直接講話を聞いたのは黒川照子さんと私の妻二人である。
 大山で農業を営む若手の方々に是非とも彼地を訪れ、小向翁の卓話を聞いてこれからの人生の道標として欲しいと願うものである。
 凄まじく進化するこの時代に、変化に即応出来る力と、どう時代が変化しようとも変わらない物づくりに対する「不易流行」の哲学と信念があってこそしたたかに生き残る事が出来よう。

 
 
 
 
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